ランクアップの、切字『かな』について。
ベテランの会員から質問が来ましたので、
ここで、皆さんに説明します。
また、専門用語の詳細は、
順次わかりやすく説明しますのでお待ち下さい。
Q、
切字の『かな』は、
中七の最後に動詞か助詞がきて、
下五で三文字の言葉が入って、
“かな”で締めるのが、通常ですが、
切れのよい句またがりの言葉を使って、
最後に“かな”と締めても良いのですか?
A、
概ね良いでしょう。
しかし、
『かな』は、
句またがりがNGなのではなく、
名詞か活用語の連体形に用いるのが、
原則である、と、言う事デス。
以下、ちょっと詳しく説明。
『かな』は、助詞です。
具体的に言うと、詠嘆を表す【終助詞】です。
終・助詞ですから、原則的に、文末に用いられるワケです。
俳句でも特例(倒置法・後程詳しく説明)以外では、
句の末尾に用いられるケースが一般的だ、と、言ってよいでしょう。
詠嘆を表す他の助詞・・・[や]と、大きく違う点は、
『かな』は、接続する原則がアル助詞だと言う事デス。
さらに詳しく言うと、
ココは重要ですヨ!
『かな』は、
名詞(体言)か活用語〈動詞・形容詞・形容動詞・助動詞/後程詳しく説明〉の、
≪連体形/後程詳しく説明≫のみにしか、接続しない助詞だと言う事です。
次回、具体例を出してもっと詳しく説明します。
で、ついでに、今回は、
詠嘆を表す、以下の【終助詞】について、説明します。
『かな』は、詠嘆>だなぁ。
な、禁止>~な。
そ、禁止>~な・~ないでくれ。
ばや、願望>~たい。
もがな、願望>~たい・~があればなぁ。
ぞ、念押し>~であることよ・~であるか。
初心者は、まず、『かな』を使いこなしましょう。
繰り返しますが、俳句に用いる、『かな』は、
原則的に、名詞(体言)または、≪連体形≫に、
>接続<すると言う事です・・・但し、幾つかの特例はあります。
う~ん、出来れば年内に、多くの具体例と、
特別な用法などを説明したいと思います、が、
来年になったらスイマセン・・・。
他、予習できる人は、
してみて下さいマセ。
ではでは、次回。
釣月
芭蕉・解説Ⅰ。
芭蕉が詠んだ松島の俳句。
【島々や千々に砕きて夏の海】
ただ、奥の細道として、芭蕉は松島の句は一つも残していません。
「蕉翁全伝附録」にこの句を残しています。
では、
なぜ松島の句を「おくのほそ道」で示さなかったか?
その訳を、弟子の服部土芳が「三冊子」で以下のように書いています。
師のいはく、『絶景にむかふ時は、うばはれて不叶』
日本三景に心を奪われ、感動の余り思うように句が作れなかった・・・、
と、言う意味になるますかね(笑)
中国の景色に勝るとも劣らないとの記載もあり、
中国をかなり意識して、当時の中国のインテリ層の姿勢、
「景にあうては唖す」
絶景の前では黙して語らず
と、意識的に句を示さなかったとも思われます。
他の理由としては、
芭蕉が自分の文章により、
松島の素晴らしさ書けたので満足してしまった?
わざと、松島では句を作れないと言うことを示し、
書き示さない事で、その絶景の素晴らしさを際立たせた。
「秘すれば花」なりと、言う事かも知れません。
蛇足。
「松島や ああ松島や 松島や」
この句には原型があって、
「松嶋や さてまつしまや 松嶋や」
江戸時代後期の狂歌師・田原坊の作です。
これの、さて、が、ああ、と、変化した様です。
2
蚤虱馬の尿する枕もと/封人の家
眉はきを俤にして紅粉の花/尾花沢
閑さや岩にしみ入蝉の聲/山寺
五月雨をあつめて早し最上川/大石田(高野一栄宅・連歌の発句)
水の奥氷室たずぬる柳かな/新庄(澁谷甚兵衛宅)
ありがたや雪をかをらす南谷/鶴岡(羽黒山南谷別院)
涼しさやほの三ヶ月の羽黒山/尾花沢(鈴木清風宅)
語られぬ湯殿にぬらす袂かな/湯殿山
雲の峰いくつ崩れて月の山/月山(角兵衛小屋)
珍らしや山を出羽の初茄子/羽黒山を下山後の民田なす
暑き日を海に入れたり最上川/酒田(安種亭寺島彦助宅・句会)
温海山や吹浦かけて夕涼み/酒田(最上川河口の袖の浦で舟遊びの吟)
象潟や雨に西施がねぶの花/秋田・象潟
3
旅立ち
草の戸も 住み替はる代(よ)ぞ 雛の家
日光
あらたふと 青葉若葉の 日の光
那須
野を横に馬牽(ひき)むけよ ほととぎす
平泉
夏草や 兵(つはもの)どもが 夢のあと
五月雨の 降り残してや 光堂
山形 立石寺
閑さや岩にしみ入る蝉の声
新庄
五月雨を あつめて早し 最上川
月山
雲の峰いくつ崩れて月の山
象潟
象潟や 雨に西施が ねぶの花
越後 出雲崎
荒海や 佐渡によこたふ 天の河
市振の関
○ 一家(ひとつや)に 遊女もねたり 萩と月
金沢
あかあかと 日は難面(つれなく)も 秋の風
小松
○ むざんやな 甲(かぶと)の下の きりぎりす
大垣
蛤(はまぐり)の ふたみにわかれ行く 秋ぞ
4
蚤虱馬の尿する枕もと
この地域では馬屋は住居の中にあった。してみれば蚊も虱も蚤も一緒に住んでいたに違いない。馬が放尿するのはいたく当然のことだから、その猛烈な音に目が覚めることも至極尤もなこと。ただし、そのことが「枕もと」で起こったように言うのは文芸的誇張に相違ない。実際は有路家は立派なつくりであったし、旅人の格によって部屋を割りふったとはいうものの江戸の大詩人を迎えてよもや馬小屋の隣に寝かしたとは思えない。リラックスした名品。
尾花沢にて清風*と云者を尋ぬ。かれは富るものなれども志いやしからず*。都にも折々かよひて、さすがに旅の情をも知たれば、日比とヾめて、長途のいたはり、さまざまにもてなし侍る*。
涼しさを我宿にしてねまる也
風宅での手厚いもてなしへの感謝の句。「ねまる」は山形方言で、自分の家にいるような気のおけない寛ぎ方をいう。羽前赤倉の山中を越えてほっとした気分もこめた句。
這ひ出よ飼屋が下の蟾の声
飼屋は養蚕小屋のこと。その蚕室の床下に大きなひき蛙がいる。これが野太い声で鳴いている。古来、ひき蛙の鳴く声は人を恋する情景描写に使われた。
眉掃を俤にして紅粉の花
尾花沢は紅花の特産地。紅の顔料は都に出て京紅となって女性の心を楽しませてくれる。この家の主人清風はその紅花の流通を生業としていた。
清風:鈴木道祐。尾花沢(この時代には「おばねざわ」と呼称していた)の豪商。紅花の流通業や貸し金業で財を成した。島田屋八右衛門とも称する。芭蕉とは旧知の間柄。しばしば江戸と出羽とを往復していて世間の事情に精通していた。芭蕉の評価の高かった門人の一人。 この時39歳。
蚕飼する人は古代のすがた哉:養蚕に励む農民の姿は実に質素簡素で、古代の農民の姿が偲ばれることだ。
5月17日に昼過ぎに山形県尾花沢市鈴木清風宅に着いて一泊。
5月18日は、小雨が降る。弘誓山養泉寺(写真)に移り、ここの風呂に昼間から入る。随分寛いだのであろう。
5月19日。朝は晴れるが夕方小雨に変わる。
5月20日。小雨。
5月21日。朝は、東水宅へ招かれ、夜は沼沢所左衛門宅に招待される。清風宅宿泊。
5月22日。俳人素英(村川伊左衛門)宅に招待される。
5月23日。夜、歌調(歌川仁左衛門)宅に招待される。清風宅に宿泊。
5月24日。大石田 一栄、高野平右衛門宅で歌仙。夜、一橋(田中藤十良)が寺でもてなしてくれる。
5月25日。時々小雨。昼、俳諧の予定洪水騒ぎで中止。夜、仁左衛門宅より、「庚申待」(庚申<かのえさる>の夜には朝まで夜遊びをする風習があった)に招待される。
5月26日。昼より遊川(沼沢所左衛門)宅に招かれる。小雨が降る。
5月27日。天気良好。朝9時尾花沢を出発して立石寺へ向かう。
高野平右衛門宅で歌仙/連歌
大石田、高野平右衞門亭ニテ・最上川岸
五月雨を集て凉し最上川 翁 発句
岸にほたるつなぐ舟杭 一榮 脇句
爪畠いざよふ空に影待て ソラ 第三
里をむかひに桑の細道 川水 平句
しの子に心慰む夕間暮 一榮
水雲重しふところの吟 翁
5
歌仙「すゞしさを」の巻
すゞしさを我がやどにしてねまる也・芭蕉
つねのかやりに草の葉を燒・清風
鹿子立つをのへの清水田にかけて・曽良
ゆふづきまるし二の丸の跡・素英
楢紅葉人かげみえぬ笙のおと・清風
鵙のつれくるいろいろの鳥・風流
ふりにける石にむすびしみしめ縄・素英
山はこがれて石に血をぬる・芭蕉
わづかなる世をや継母に偽られ・風流
秋田酒田の波まくらうき・曽良
うまとむる関の小家もあわれ也・芭蕉
桑くうむしの雷に恐づ・清風
なつ痩に美人の形おとろひて・曽良
霊まつる日は誓はづかし・素英
入月や申酉のかたおくもなく・清風
鴈をはなちてやぶる艸の戸・芭蕉
ほし鮎の蓋ては寒く花ちりて・素英
去年のはたけに牛房芽を出す・曽良
蛙寝てこてふに夢をかりぬらん・芭蕉
ほぐししるべに國の名をきく・清風
あふぎにはやさしき連歌一両句・曽良
ぬしうたれては香を残す松・素英
はるゝ日は石の井なでる天をとめ・清風
えんなる窓に法華よむ聲・芭蕉
勅に來て六位なみだにたたずみし・素英
わかれをせむる炬のかず・曽良
一さしは射向の袖をひるがへす・芭蕉
かはきつかれてみたらしの水・清風
夕月夜宿とり貝も吹よはり・曽良
とくさかる男や簔わすれけん・素英
たまさかに五殻のまじる秋の露・清風
かがりに明ける金山の神・芭蕉
行人の子をなす石に沓ぬれて・素英
ものかきながす川上の家・曽良
追うも憂し花すふ蟲の春ばかり・清風
夜のあらしに巣をふせく鳥・素英
創作の基本に返る『四つの基本型』と切字の効用。
そんな時は、基本に返りましょう。
講座でも噛み砕いて説明した、
藤田先生が提唱した、
「四つの基本型」
について、再度説明します。
ちょっと長いですが、創作の基本です。
しっかり読んで実践さて下さい。
*上五+中七+下五の4パターン*
その1
季語名詞4+<や> + 中七 + 体言止[名詞]
例句
御下がり<や> 棟上式の 祝い餅[名詞] /小栗釣月
御下がり~三が日に降る雨雪、豊作の吉兆と言われる。
目出度い、棟上式「建築の上棟式」&お祝い餅、
三が日と三つのお祝いをかけている。
その2
上五 +6+<や> + 体言止[季語名詞]
例句
千年の 松を見越す<や> 雲の峰[季語名詞] /小栗釣月
その3
上五 + 中七 + [季語名詞]+<かな>
例句
川舟に まだ陽のあたる 涼み[季語名詞]<かな> /小栗釣月
その4
[季語名詞] + 中七 + [動詞]+<けり>
例句
炬燵猫[季語名詞] 絡まる足を ほどき[動詞]<けり> /小栗釣月
季語の季節感と本質と背景を考える。
季語と同じ仲間の言葉や名詞や近いフレーズを重ねない。
季語を立てる、ただし、季語をなるべく切字以外で詠嘆しない。
無理に季語を飾ったり高める必要はない。
季語にトラワレナイ。
季語の無用な説明は不要、
季語の主体性、
季節感を信頼して、
句の中に定める。
だから、で、
その理由により、で、
繋げる結果ありきで説明するパターンは良くない。
例句
御下がりや 猫と一緒に 雨宿り
雨が降って来たので猫と一緒に雨宿りをしています。
駄目、説明的、雨ありき、さらに下五の雨が被っても効果なし。
雨、だから、猫と雨宿りしています。
御下がりや 結髪[けっぱつ]くずれ 軒の下
雨が降って濡れてしまったので晴れ着の為に結った髪が崩れてしまい軒の下で雨を防いでいます。
これも駄目、説明的、雨・濡れた・逃げる、すべて雨が要因。
雨、だから、結った髪がくずれ、軒の下で、雨宿りしています。
すべて、このパターンを悪いとは言いませんが、
擬人法と同じく、あまり成功はしません。
俳句は、リズム[韻律]・流れ・テンポ[速度・間合]・が大切です。
その為には、切字を使い、リズム、流れ、テンポを整える。
切字は一句にひとつ。
以下、三つの効果を再確認する。
季語や言葉を詠嘆する効果。
言葉の省略によりキレや余韻を想像を促す効果。
格調を高める効果。
「や」は、詠嘆、強調、場面展開、心の変化などに効果あり、一般に上五に用いる。
「かな」は、落ち着かせたり、静めたりする効果あり、
五・七・五の基本型の下五で使うと一番収まり良く、全体が安定する。
「かな」は省略による余情余韻効果もある。
「けり」には勢いや強さや決意・決定・断定などを示す効果がある、一般に上五に用いる。
「けり」を使用する句には、全体的に、強い、早い、また激しい気持ちやテンポがある事が望ましい。
誰の為に俳句を詠むのか考える。
挨拶句など人の為に詠む場合もある、
自然に畏怖の念を抱き、
日本の四季を詠む場合もあるが、
自分のため詠むのです。
さらには、自分だけの俳句を作る、オリジナリティ、唯一ということを、目標にして頂きたいと思います。
ゆえに、基本の四型。
これに当てはめて、もう一度、訓練をしてみましょう。
もちろん、これ以外の創作もしてみて下さい。
作者自身が見たいろいろ風景、
人々の生活の日常の場面、
そのイメージを、読み手が具体的に浮かべる、映像化される、懐かしく思う、
そのような創作を心がけましょう。
また、朝を夜に、
曇を晴に、変更する事により、
よりリアリズムや感動を与えられるなれば、
その状況設定を変える事も良い。
例句、
曇天に 朱を刻印す 実山椒
変更、
藍天[らんてん]に 朱を刻印す 実山椒
句会の当日は曇り空、ゆえに、その日は写生を心がけ、曇天と詠んだ。
しかし、朱を映えさせるなら、空は青が望ましい。
ただ、嘘はダメ、オーバー、誇張、は、良くない、そのあたりを考える。
空想をしてはいけないとは言わないが、
写生ができて、後の、主体に対しての空想でなくてはならない。
できれば、創作は、休まず続ける事が大切です。
一日、一句を目標にできたら理想です。
句を詠めない時、その時は、
せめて、歳時記をひらき、名句を鑑賞しましょう。
長くなりました、すいません。
では、投句を待っています。