三月十六日~七十二候・その九[ 菜虫化蝶(なむしちょうとなる)]
古の蝶(蛾とも混合されている)のイメージは悪く、和歌でほとんど歌われていないようですネ。
散りぬれば後はあくたになる花を思ひ知らずも惑ふてふ(蝶)かな/僧正遍照
初蝶やわが三十の袖袂/石田波郷
黒塀古し蝶の羽真新し/小栗釣月

二十四節気・第三・【啓蟄】・末候、菜虫化蝶。
蛹で越冬した蝶が、やっと春をむかえて羽化する頃。
蝶、もちろん、春の季語であります。
菜虫とは、大根や白菜などの油菜科の菜類を食む、昆虫の幼虫の総称ですが、主に青虫・・・芋虫君ですね。

キリスト教で蝶は復活の象徴であり、日本でも地方により同じ考え方をしており、仏や死者の化身とも言われます。
蝶の異名は、「夢虫」・「夢見鳥」が有名で、中国の有名な故事である『胡蝶の夢』から来ています。

蝶の羽のいくたび越ゆる塀の屋根/松尾芭蕉
蝶々や花盗人をつけてゆく/横井也有
けふ(今日)いちにち食べるものある、てふてふ(蝶々)/種田山頭火
《蝶来タレリ!》*注1韃靼ノ兵ドヨメキヌ/辻貨物船
蝶速し母に呼ばれし子のごとく/大串章
電車から手を振る吾子や蝶立てり/小栗釣月

*注1
「韃靼(だったん)ノ兵」=モンゴル兵(蒙古)。
上五は、安西冬衛の一行詩「春」からの引用。
「てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた」。
辻貨物船とは、抒情詩人・辻征夫の俳号である。
支那の宣明暦、七十二候・その九、『鷹化為鳩(たかかしてはととなる)』。
春の陽気に誘われて、鷹が鳩に変身してしまうと言う馬鹿馬鹿しいお話(笑)。
しかし、立派な季語でありますので、『鷹化為鳩』は、明日(3/17)にて。