2017/4/5・詩人の大岡信さん死去。
大岡信と谷川俊太郎。
双璧の一人が逝った・・・巨星墜つ。
残念、無念。
哀悼の意とともに、
私の好きな、
詩をご紹介。
父親が娘に想いを託す・・・。
~大岡信詩集 『捧げるうた/50篇』 より~
「春 少女に」
ごらん 火を腹にためて山が歓喜のうなりをあげ
数億のドラムをどっととたたくとき 人は蒼ざめ逃げまどふ
でも知っておきたまへ 春の齢の頂きにきみを押しあげる力こそ
氾濫する秋の川を動かして人の堤をうち砕く力なのだ
蟻地獄 髪切虫の卵どもを春まで地下で眠らせる力が
細いくだのてっぺんに秋の果実を押しあげるのだ
ぼくは西の古い都で噴水をいくつもめぐり
ドームの下で見た 神聖な名にかざられた人々の姿
迫害と殺戮のながいながい血の夜のあとで
聖なる名の人々はしんかんと大いなる無に帰してゐた
それでも壁に絵はあった 聖別された苦しみのかたみとして
大なるものは苦もなく小でありうると誇るかのやうに
ぼくは殉教できるほど まっすぐつましく生きてゐない
ひえびえとする臓腑の冬によみがへるのはそのこと
火を腹にためて人が憎悪のうなりをあげ
数個の火玉をうちあげただけで 蒼ざめるだらう ぼくは
でもきみは知ってゐてくれ 秋の川を動かして人の堤をうち砕く力こそ
春の齢の頂きにきみを置いた力なのだ
合掌。